| 神名 | ナフア族アズテック人の神との類似 | 概要 |
| A | ミクトラン神 | マヤ族の死の神。脊椎骨を表して髑髏のような顔をして、身体には大きな黒色の反転を付けている。
この神を示す絵画的記号は僧の眼を閉じた死人の首、犠牲を屠る小刀を前にした頭蓋骨。この神が示す死界は西だがミクトランは北を指す。可能性として名前は「ヴクブ・カメ」「フン・カメ」 |
| B神 | クェツァルコアトル神 | 水、火、風のような自然界のエレメンツを司る神。燃え盛る松明を振り回したり、水波の上を歩いたり、丸木舟を操ったり、東西南北の十字形の樹の上に座り込んだりしている。自然神である反面、人文的英雄で玉蜀黍を植えたり道具を手にしたり旅立ちをしたりしている姿がある。マヤ族の信奉するククルカン神に類似する。獏の鼻のような鼻をしている。 |
| C神 | | 星学的天文学的な意義を持つ。極星(ポーラースター)を表す神。「トロ・コルテシアヌス」という古写本には惑星の符号に取り囲まれている。 |
| D神 | メツトリ神 | 月の神。年老いた男性で弛んだ頬皺の寄った額、頭に垂飾り、それには夜の標徴の「アクバル」と呼ばれる記号を取り囲んでいる。メツトリ神は人の子の誕生と深い関係がある。この神は出産を象徴するところの蝸牛が額についている。蛇型の頭飾りをつけている。男性であるが十五夜には女性の姿をして現れる。両性的である。マヤ族イツァムナ神(太陽神)と同一しされることもある。 |
| E神 | センテオトル神 | 玉蜀黍の穂を頭飾りとしている。ユム・カアクス神と推定されている。「収穫の田畑の主」という意味。(またガーナンとも) |
| F神 | シペ神(またはフイチロポクトリ神) | 死の神A神と類似している。一本の黒い線が額から目の周りに走っている。暴力による死を司る神、人身御供と戦争を司る神とされている。 |
| G神 | | 太陽神。キン(キンはマヤ族の間で太陽の標識)によって代表されている。太陽そのものの神格化された者。蛇のような舌を有し、手のような鼻鉤を着けている。 |
| H神 | 要素 | 蛇と関係を持った神。マヤ族の暦にチッカンという日があり、その記号は蛇の鱗又は皮膚の斑紋のような形でその言葉の意味も大蛇を表す。 |
| I神 | 要素 | 水の女神。年を取った女で皺の寄った褐色の体をして、鳥獣の詰めのような形をした脚で頭の上に結節になった醜い蛇を飾って水の流れ出ている土製の壺を手にしている。破壊力としての水の人格化で、洪水や竜巻を司る神。交叉骨を身に付けている。 |
| K神 | | 「飾り立てた鼻を持つ神」どんな性質の神かは諸説ある。 |
| L神 | | 年を取った男で、老衰した顔で歯が生えていない歯茎をしている。顔の半分(上半部、下半部)が黒く塗られてあらわされる。 |
| M神 | 要素 | 真っ黒な顔、又は黒い筋がいくつも入っている顔で唇は上下とも赤褐色で下唇が垂れている。目の曲線は二本の白い筋。旅行者、行商人の保護を司る。綱をかけた荷物を頭にのせている。アズテック族のヤカテクトリ神と相性が良いと推論できる。蠍の尾を付けた老人の姿、下あごに一本の歯を生やした老人の姿で現れることもある。金星と関係があるとする説もある。 |
| N神 | 要素 | 年取った男で一年の日数三百六十を示す徴のついた頭飾りをしている。(マヤ族はメキシコ人と同じく、一年を三百六十日としその後五日の厄日を入れている。「ウアヤヤブ」意味は年が毒せられるもの。)この神をウアヤヤブそのものとする説もある。 |
| O神 | | 年老いた女性、下あごに一本の歯がある。はっきりしないが、家庭の仕事を司る神。糸を紡いでいる姿であらわされることがある。 |
| P神 | 要素 | 蛙の体と脚趾を具え、水を示す青色の背景に示されている。時として種子を播き畑の溝をこしらえる姿、頭飾りに三百六十を示す徴を着けている。 |
| キニチ・アハウ神 | | ユカタン地方マヤ族の間に崇拝された太陽神。名前の意味は「太陽の面の主」。マヤ族のアララという「火の鳥」と同一視する場合がある。火の鳥としての太陽神はキニチ・カクモ神と呼ばれた。意味は太陽鳥。この神は北の方位を支配する精と考えられた。 |
| イツァムナ神 | | マヤ族の月の神。人類の父とされる。また、イツァムナ神は「われは天界の露なり。我は雲の露なり。」といったとされる。月の神は太陽よりも植物を豊かに育てるとされ、重要視されていた。また、西の方角を司る。 |
| チャック神 | | 雨の神。チャックという言葉の意味は「赤きもの」を意味する。獏のような鼻を具えている。この鼻で大地を吹きまくると雨が降り出すと信じられている。東の方位を司る。 |
| イックス・チェル女神 | | 医学を司る女神。 |
| エクチュア神 | | 商人、ココア栽培者の保護神。 |
| バカブ神 | トラロック神 | 四人からなる神。それぞれが大地の隅に立って天空を支えていると信じられた。名前はカン(東、黄)、ムルク(北、白)、イックス(西、黒)、カウアック(南、赤) |
| フナブク神 | | マヤ族の一種の最高神。姿を見ようとしても見えない神。神話や伝説に姿を現していない。 |
| ヴォタン神 | 要素 | カビル神と同一視される。ものを書く技術や建築の技を教えた霊物とされている。 |
| カビル神 | 要素 | ヴォタン神と同一視される。同じくものを書く技術や建築の技を教えた。カビルは「赤い手」を意味する。 |
| ゾチラハ・チマルマン神 | 要素 | 蝙蝠の神、別名カマゾッツ「蝙蝠の家」と呼ばれる洞窟に棲んでいる意地の悪い存在。「蝙蝠の家」が死界に通ずる路に存在する。冥府へ辿り行く死人の霊を苦しめるという。洞窟崇拝の名残という説もある。 |
| ククルカン神 | クェツァルコアトル神 | ククルカンという名前はクェツァルコアトルをマヤ族語に訳されたもので「羽の生えた蛇」を意味する。クェツァルコアトルと異なり雷の神の属性を持つ。また、クェツァルコアトル同様に風の神の属性ももつ。 |
| フラカン神 | テズカトリポカ神 | キシェ族の風の神。「下へ投げつけるもの」(subject)と呼ばれることがある。フラカンは「一本足の者」という意味と推定されている。自分の手下として三人の神を使っていると言われている。一人目「カクルハ・フラカン」(稲妻)二人目「チピ・カクルハ」(稲妻の閃き)三人目「ラクサ・カクルハ」(稲妻の跡) |
| グクマッツ神 | クェツァルコアトル神 | マヤ・キシェ族の神で天地創造の事業に携わった存在である。グクマッツの意味は「緑の羽根を持つ蛇」を意味する。 |
| エックスピヤコック神 | | エックスムカネ女神と一対の父母神 |
| エックスムカネ女神 | | エックスピヤコック神と一対の父母神 |
| フン・アプ | | 半神半人の性質を持つ人文的英雄。フン・アプという言葉は「主人」「呪術師」を意味する。 |
| エックスバランクェ | | 半神半人の性質を持つ人文的英雄。エックスバランクェという言葉は「小虎」を意味する。 |
| ヴクブ・カキックス | 要素 | 大地の巨人。その子らも巨人である。 |
万物創造
太初には何もなく、闇が八方に広がっており、神々が存在した。神々の名は、フラカン、グクマッツ、エックスピヤコック、エックスムカネといった。神々は大地を造らねば何もできないと言って、一人の神が大地よ現れるよう叫んだ。すると大地が現れた。
神々は相談して、動物をこしらえて大地の上に住まわせた。最後に木を刻んでたくさんの小さい人間をつくったが、性質が悪くて神々を蔑ろにするので、フラカン神が大地の水の量をまして同時に幾日も大雨を降らせ洪水が人間を襲った。人間は逃げ惑ったがそれを追い回すように、エックセコトコヴァックという鳥は目をつつき、カムラッツという鳥は頭を咬み切り、コツバラムという鳥は、その肉を食らいつくし、テクムバラムという鳥はその骨を砕いた。
人間に飼われていた家畜や人間に使われていた道具さえ泣き叫ぶ人間を眺めて、嘲り笑うのであった。
犬や鶏は今まで人間にひどい目にあわされたと噛みつき、石臼は苦しめられたと人間の肉を碾き砕いき団子にし、茶わんや皿は人間に火傷をさせた。人間は追いかけられ、家の屋根の上に登ると、屋根はわざと地面に突っ伏した。人間は慌てて樹の上によじ登ると、樹は激しく枝を動かして、人間を大地に振り落とした。人間は困ってしまって洞穴の中に潜ろうとすると、洞穴はその口を閉じてしまった。
こうして大地の上を逃げ回っているうちに小さい人間たちは水に責められ生物や物に傷めつけられみんな滅びてしまった。
人間創造
フラカン神を始め天界の神々は新しく人間をつくろうと考えた。そして黄色い玉蜀黍と白い玉蜀黍の粉を捏て糊をこしらえて四人の男の人間をつくった。
一人ははバラム・キッチェ「美しき歯を持つ虎」と呼ばれ、一人はバラム・アガブ「夜の虎」と呼ばれ、一人はマハクター「著しき名」と呼ばれ、一人はイキ・バラム「月の虎」と呼ばれた。
フラカン神は人間が自分たちと同様に偉い者であることが良くないと考え不完全で知識がなく、決して神とならないように四人の男の眼を狙って、息を吹きかけ、大地の一部しか見えなくした。神々は大地の隅から隅まで見ることができる。
その後神々は男たちを深い眠りに陥れて、四人の女をこしらえて、男たちに妻として与えた。
女はそれぞれ、カハ・パルマ「落ちる水」、チョマイ「美しき水」、ツヌニハ「水の家」、カキクサ「輝く水」と呼ばれた。これら八人の男女が人類の祖先となった。
火の起源
人間は始め火をもっていなかった。夜は真っ暗で寒い時は震えていた。そして鳥や獣を手に入れても生のままで食べていた。
トヒルという神が可哀想に思い、両方の脚を擦り合わせて、火を燃やし人間はそれを貰って、みんなで分けることにした。そしてそれを消さないように大切にしたが、大雨で国中の火が消えてしまった。
人間は非常に悲しんだ。トヒル神がそれを見て、もう一度脚を擦り合わせ火を起こすと人間へ与えた。こうして人間が火をなくす度に、トヒル神のお蔭でそれを手に入れた。
太陽の出現
神々から作られた八人の男女は闇の世界に住んでいて太陽がまだなかった。八人の男女は天を仰いで、光明と安らかな生活を祈ったがいつまでたっても太陽は現れなかった。彼らは悲しみ悩み、ツラン・ジヴァ「七つの洞窟」という地に移った。しかしそこにも太陽は現れなかった。
そうしているうちに、どうしたのか、言葉の混乱が起こって、八人の男女は、お互いにお互いの言うことがわからぬようになった。彼らは困り果て、トヒル神に幸福な土地に導くように祈った。彼らはトヒル神の教えによって、長い旅路につき、高い山をいくつとなく越えているうちに、大きな海に出た。どうやって海を渡ろうかと悩んでいると、不思議にも水がさっと二つに分かれて、一筋の路が出来た。彼らはその道をたどって、ハカヴィツという山の麓に来た。
四人の男はトヒル神のお告げでここに留まらなければならず、ここで太陽を見ることができるといい、四人の女も従った。
こうしてひたすら太陽を待っていると太陽が現れた。初めのうちは光があまり強くなかった。太陽を見た男女も獣類も嬉しさに踊り狂った。彼らはカムク「我らは見つ」という歌を歌った。
こうして八人の男女はハカヴィツ山の麓にキシェ族の最初の街をつくりそこに永く住むことにした。時がたち、人間の数が増え、八人の男女も年寄りになった。ある日、神々が幻のように八人の前に現れて、子孫が長く栄えることを願うなら二元の犠牲を捧げなければならないといった。
八人の男女は神々に従い近くの土地にすんでいる他の部落を襲った。他の部落はキシェ族と永い争いとなった。すると地蜂や熊蜂が現れてキシェ族を助け、敵の眼を指した。敵は降参して、八人の男女は敵勢から幾人か選び出して生け贄として神に捧げた。
こうしてキシェ族は部落を切り従えていったが、そのうちに彼らの親である四人の男はいよいよ年を取り、彼らは臨終が近づいたことを悟り、別れの言葉を言って聞かせるために子や孫や親類たちを自分たちの廻りに呼び集めた。別れの言葉が住むと、四人の男の姿がたちまち見えなくなった。そしてその後に大きな巻束が現れた。キシェ族はその巻束を「包まれたる厳の宝」と名付けて、決してこれを開かなかった。
冥府からの挑戦
エックスピヤコック神とエックスムカネ神との間に、二人の男の子があった。一人はフンフン・アプと呼ばれ、一人はヴクブ・フナプと呼ばれた。フンフン・アプ神はエックスバキヤロとう女神を娶って二人の男の子を産んだ。一人はフンバツ、一人はフンチョウエンと呼ばれた。これらの神々はトラクトリという球遊びが大好きであった。大勢の者が、丸井石にあいている小さな穴に球を通そうと争って、成功した者が、賭物の着物や宝石を勝ち取るというものだった。
ある日フンフン・アプ神とヴクブ・フナプ神がトラクトリを催した。二人は価値に夢中になっていつの間にか死の世界テックシバルバの近くまで来ていた。
冥府の支配者であるフン・カメとヴクブ・カメは二人の神を日頃から憎んでいたためこの機会に生け捕りにしようとたくらんだ。二人は四人の手下を四羽の梟にして、フンフン・アプとヴクブ・フナプの所にやってトラクトリの賭けに誘った。二人は冥界の支配者の挑戦に応じた。
二人は梟と死人の世界に入り込んだ。梟は冥府の首領たちの館に連れて行った。館の前に二人の男が腰を掛けていた。二人は挨拶をすると、それは樹の人形だった。冥府の者たちは二人を眺めて、二人を嘲った。
二人は激怒したが、勝負で仕返しをしようと我慢した。二人は冥府の者に連れられて館の中に導かれ、上座に座るように言われた。
二人の神が腰を下ろすと、それは焼きたてた石であった。それを見た冥府の者は嘲り笑った。二人の神は堪り兼ねて猛然と踊り立った。その時、冥府の者たちが駆け寄って、二人を捕らえ「暗の家」に閉じ込めた。そして二人を殺して土の中に埋めてしまった。
冥府の支配者たちは、手下に言いつけ、フンフン・アプの頭を切り取って、たくさんの瓢箪(ひょうたん)の成っている一本の樹につるさせた。
そして今後その樹の実を食べてはならないと忠告した。
死の世界の貴人の一人クチュマキックの娘にエックスキックという乙女がいて、ある日瓢箪の樹の側を通りその実を一つちぎろうと手を伸ばしたところフンフン・アプの頭がエックスキックの手に唾を吐き、エックスキックが母親になると告げた。エックスキックは夫がなく子を産んだら、殺されてしまうといったがフンフン・アプの頭はそんなことにはならないと諭した。
それから二、三か月たつと、クチュマキックが娘の体の異変に気付き、梟たちに娘を殺しその証拠に心臓を壺に入れて持って帰るように言いつけた。梟たちはエックスキックを騙して連れ出したが、エックスキックは計画を悟り命乞いをした。梟どもは可哀想だと思い、エックスキックの命を取らないことにした。そして心臓の代わりにギシギシ草(羊蹄草)の赤い汁の固待ったものを壺に入れて持ち帰った。
エックスキックは冥府を逃げ出して、フンフン・アプの母エックスムカネの許を訪ねそのいきさつを話したが、彼女はそれを信じなかった。
エックスキックは証拠を示すと言い、エックスムカネは玉蜀黍の生えていないところに行って、籠一杯の玉蜀黍を集めるように言った。エックスキックは玉蜀黍の生えていない野原で大地を叩くとたちまちに沢山の玉蜀黍が出てきて、その実を籠に摘み持って帰った。エックスムカネは彼女の言葉を信じて自分の許にいるように言った。そして生まれる子はフンフン・アプの子に違いないといった。エックスキックは暫くして双子の男子を産んだ。一人はフン・アプと呼ばれ、一人はエックスバランクェと呼ばれた。
人猿の起源
フン・アプとエックスバランクェは大きくなるといたずら者になり祖母エックスムカネ女神を苦しめた。
女神は堪り兼ねて、二人を家から追い出したが、二人はそれをいい事に山や野で気ままな生活をするようになった。
彼らは誰から教わるともなく吹き筒を吹くことに長けていた。そして吹き矢を飛ばして鳥や獣を射止めていた。
腹違いの兄弟であるフンバツとフンチョウエンはそれを妬み狩りの邪魔をしていた。フン・アプとエックスバランクェは腹を立ててフンバツとフンチョウエンを醜い猿に変えてしまった。
エックスムカネ女神は二人が猿に変わったことに悲しんで、フン・アプとエックスバランクェを呼び出してフンバツとフンチョウエンが歌を歌ったり笛を吹き鳴らしたりして生活を明るく楽しくしていたのだから元の姿に戻してほしいとお願いした。
二人はエックスムカネが二匹の猿がどんなにおどけた振舞いをしても笑わなければ元の姿に戻すと答えた。二人はフンバツとフンチョウエンにおどけた身振りをさせた。エックスムカネは一生懸命に笑いを我慢していたがやがて堪り兼ねて笑ってしまった。フン・アプとエックスバランクェは二匹の猿をそのままにしておいた。こうして世の中に人猿が出来た。
双生児の冥府攻め
フン・アプ神とエックスバランクェ神は魔法の道具を持っていた。その道具は一人でに玉蜀黍の畑を耕したり、種子をまいたり、収穫をしたりするのであった。
双生児の神は畑の仕事を道具に任せて、自分たちは山や野に狩に出ていた。
エックスムカネ女神は二人に畑の仕事に精を出すように言っていたため、日暮れには手や顔に泥を擦り付けて女神の許へ帰った。
それを見た野獣どもは申し合わせて夜の間に樹の根や石ころを畑に投げ込むことにした。双生児の神はそれを見ると畑の側に大きな罠をかけておいた。夜になるとウサギと鹿が罠に尾を挟まれた。しかし身をもがいて尾を切って逃げ出した。このためにウサギと鹿は今日でも短い尻尾をしている。
最期に一匹の鼠が罠にかかった。鼠は罠を抜け出せず夜が明けて、鼠はとうとう双生児の神に捕まってしまった。二人が鼠を踏みつぶそうとすると鼠は命乞いをして、助けてくれたならば大切な話をすると言い、二人の父のフンフン・アプが冥府の首領に騙されて殺されてしまったことを話した。二人の神は悲しみ怒って復讐すると叫んだ。
冥府の首領フン・カメとヴクブ・カメはそれを聞きつけて、トラクトリにかこつけて双生児の神を退治しようと考えた。そこでエックスムカネ女神の許に使いを立てフン・アプとエックスバランクェと球遊びの勝負をしたいと言わせた。エックスムカネは二人の孫がその父フンフン・アプや叔父のヴクブ・フナプと同じような運命に陥るのを心配して、自分の側にいた一匹の虱に冥府の首領からの申し込みを二人に伝えるように言いつけた。
これを聞いた虱は早く歩けないため、蝦蟇に訳を話してその腹の中に飲み込まれた。
蝦蟇も同じ理由で蛇に訳を話して飲み込まれ、蛇も同じ理由でヴォックという鳥に訳を話してその腹に飲み込まれた。ヴォックは双生児の許に着くと蛇を吐き出し、蛇は蝦蟇を吐き出し、蝦蟇は虱を吐き出した。
虱は双生児の側によって冥府の首領からの申し込みを伝えた。
二人は仇を討つ時が来たと喜びエックスムカネに暇乞いをし家の真ん中に一本ずつとうきび(甘蔗)を突き刺して自分たちの身にもしものことが起こったらこのとうきびがかれしぼむから気をつけるように言い、冥府への路をたどり始めた。
二人は父や叔父の通った同じ道を歩いて行き、同じく血の河を渡って、いよいよ死人の世界に乗り込んだ。
二人は父と叔父の失敗を繰り返さないように、エックサンという動物を見張として先を歩かせることにした。エックサンはフン・アプ神の脛から抜き取った一本の毛で冥府に住むあらゆるものの体を刺しながら進んでいった。それで冥府の首領に似せて刻んである人形がすぐに見つかった。
双生児の神は人形にお辞儀をするという失策から免れ、焼きたてた石に腰掛けることや、「暗の家」に放り込まれることもうまく避けた。そして冥府の首領たちとトラクトリで勝利したので首領たちは烈火のように怒り自分たちの「花園から四つの花束」を取ってくるように言った。
同時に花の番人に一本の花も盗まれないようにと言いつけた。しかし二人の神はありに花盗みの役を頼んだので花束をつくるだけの花を盗み取ることができた。
冥府の首領はいよいよ腹を立てて、二人の神を「槍の家」に投げ込んだ。そこにはたくさんの悪魔が手に槍を持ち入ってくる者に突きかけるのであった。が、双生児の神は悪魔たちを言葉で説きつけて難を逃れた。
二人は「寒気の家」「虎の家」「火の家」に押し込められたが、知恵を巡らし難を逃れた。しかしその次に放り込まれた「蝙蝠の家」では蝙蝠の首領カマゾッツが爪を振りたてフン・アブの頭を切り落としてしまった。しかし、偶然通りかかった一匹の亀が、フン・アプに触ると頭に変じてフン・アプの首に癒えつけた。フン・アプは嫌な夢から覚めると身震いして起き上がった。
冥府の首領はどうしても二人の神の命が尽きぬのであきれ返っていた。二人はいよいよ首領たちを退治し父と叔父の仇を討つ時がきたと思い、二人の魔術師を呼んで、火葬の準備をして、その上に横たわって火をつけさせ、双生児の神は骨だけになった。その骨を魔術師は粉々に砕いて河の中に投げ込んだ。それから五日後骨の粉は魚になり六日たつと神の姿となって生き返った。
フン・アプとエックスバランクェは冥府の者に自分たちが不思議な力が使え、望むなら何でも生き返らせられるといった。冥府の者は感心してしまい、銘々いろんなことを申し出た。二人の神は申し出のままに冥府の宮殿を焼いて新しい宮殿を出現させたり、冥府の犬を殺して生き返らせたり、人間を切れ切れに切り砕いて元の体に戻したりした。
冥府の首領フン・カメとヴクブ・カメはだんだんと死んでからの感じを知りたがり、二人の神に私たちを殺して再び生き返らせるように頼んだ。
双生児の神はすぐに冥府の首領を殺したが、そのまま生き返らせることをしなかった。
冥府の者たちは驚き騒いだ。二人の神は彼らを集めて、自分の父と叔父をだまし討ちに下卑怯者だから自業自得で冥府の者たちもその罰を受けなければならないといった。さらにトラクトリは身分の良い者のする遊戯だから以後冥府の者はトラクトリをしてはならない。さらには死んだ人間を支配することも禁止した。しかし森の中の獣類を支配することは許した。
フン・アプとエックスバランクェは仕返しを済ますとフンフン・アプとヴクブ・フナプの体を死の世界から運び出して、天界にもっていき太陽と月にした。
巨魔とにせ医者
昔大洪水が大地から引いてしまわない頃にヴクブ・カキックス(火の七倍の色という意味)という怪物が住んでいた。体中が黄金と白銀で歯はエメラルドからできていた。
ヴクブ・カキックスは非常に傲慢な男で神々をいつも嘲っていた。ヴクブ・カキックスには二人の男の子がいた。一人はジパクナ、一人はカブラカンと呼ばれた。
二人とも親に劣らぬほど傲慢で気位が高くて口癖のように父の加勢をして神々の息の根をとめると威張っていた。
神々はそれを聞いて、非常に腹を立てて、フン・アプとエックスバランクェという双子を呼んで、ヴクブ・カキックス親子を退治するように言いつけた。二人はすぐに天界から大地に降りた。
ヴクブ・カキックスは一本の不思議な樹を持っていて、香りの高い黄色の実がいつもたくさん成っていた。そして毎朝その実をちぎって朝食にしていた。
ある朝、いつものように不思議な樹から実を探そうと当たりを見渡したところ、フン・アプとエックスバランクェがいて樹の実をほとんどもぎっていた。
ヴクブ・カキックスが二人に怒鳴ると、フン・アプは吹き筒でヴクブ・カキックスの口に吹き矢を放った。ヴクブ・カキックスは樹から地面に落ち、フン・アプはすかさず怪物のに組み付いた。
怪物はフン・アプの腕をつかんでもぎ取った。そして口の傷の痛さに呻きながら家に帰ってくると、妻のチマルマットに事の次第を話した。それからフン・アプの腕を火の上につるすように頼み、妻はその通りにした。
フン・アプは腕をもぎ取られた跡が痛んで仕方がなかった。エックスバランクェと相談して、魔術師に治療を頼むことにした。
二人は一緒になって、エックスピヤコックとエックスムカネの二人の魔術師の家に訪ねて行き訳を話して傷の治療を頼むと、もぎ取られた腕を取り返さなくては手の付けようがないということで、魔術師たちはヴクブ・カキックスを騙して腕を取り返すことにし、魔術師たちは医者に姿を変えた。そしてフン・アプとエックスバランクェを自分たちの息子に仕立てて、ヴクブ・カキックスの家に出かけた。
ヴクブ・カキックスは吹き矢の毒で苦しんでいたのでそれを種に彼を退治することにした。四人が怪物の家に着くとヴクブ・カキックスに声をかけて、治療に来た旨を話した。ヴクブ・カキックスは後ろにいた二人を怪しんだが、医者の子供と話すとエックスピヤコックは傷を見ることにした。やがて驚いたような顔をして毒が回って歯も目玉も抜き取らなくてはならないといった。巨魔はびっくりして不具になりたくないと叫んだが、医者は代わりの歯と目玉を入れるといった。
ヴクブ・カキックスは医者に治療を任せた。エックスピヤコックはエックスムカネの助けを借りて、巨魔の口からエメラルドの歯を抜き取り、双の眼をくりぬいて代わりに玉蜀黍の粒を詰め込むと、巨魔は一声高く叫んで、息が絶えてしまった。
一方フン・アプは、巨魔の妻を押しのけて自分の腕を取り下ろした。二人の魔術師は魔法の力でそれを傷口に見事にくっつけた。
ジパクナ退治
ヴクブ・カキックスは退治されたが、二人の子、ジパクナとカブラカンが残っていた。ジパクナは毎日山の上に山を積み重ねていた。カブラカンは地震を起こしては、それを揺り動かしていた。
フン・アプとエックスバランクェはお互いに申し合わせて四百人の若者をそそのかして、ジパクナから退治することにした。
四百人の若者は、一軒の家を建てるような風をした。そして、ジパクナがいつも遼森の中で大きな樹を伐り倒した。しばらくすると巨人ジパクナが現れてそれを見てその樹を運ぶことができるのかと尋ねた。若者たちが運べないというとジパクナは自分が運んでやると言い、大きな樹を肩に担ぎ、若者たちがあらかじめ掘っていた大きな穴の所に案内された。若者たちはその穴が家の土台となるため穴の中に材木を運ぶように頼んだ。ジパクナは罠とは知らずに樹を担いだまま深い穴の中に入って行った。
すると若者たちは巨人めがけて、大きな石を雨のように投げおろし始めた。巨人は驚いて素早く穴の片隅にあった凹みに逃げ込んだ。若者たちは首尾よく巨魔を退治できたと思い込んで嬉しくて大騒ぎをし始めた。穴の隅に隠れているジパクナはそれを見て仕返しをしようと思い、穴の中の蟻に自分の毛を渡してそれをもって若者たちの所に行くように頼んだ。蟻たちが若者たちの所に出ていくと、若者たちはすぐにそれを見つけて、巨人が死んでしまったと確信した。そして、巨人の死体の上に積み重なっていると思われる石を土台にして、家を建てた。そして酒を酌み交わして喜び楽しんでいると、穴の隅で様子をうかがっていたジパクナが立ち上がった。家も土台石も空高く跳ね上げられ、家の中に座り込んでいた若者たちはすさまじい勢いで天界まで飛んで行って、星となってしまった。いわゆる七曜星と呼んでいる星の群れも跳ね飛ばされた若者たちで、彼らは天空に座り込んで、いつまでも大地に帰れるときのくるのを待っている。
双生児の神は自分たちのために多くの若者がこの世から跳ね飛ばされたのを気の毒に思い、神々とその若者たちと対し巨人退治を決意した。
巨人のジパクナは今まで通り昼間は山の上に山を積み重ねる仕事を続けているし、夜になると、川辺をぶらついて、魚や蟹などを見つけてそれを捕らえて食べ物にしていた。双生児はそれを見て大きな蟹を一匹こしらえ、谷底の洞窟の中において、それからひそかに大きな山の下を掘りぬいて、じっと様子を見ていた。
間もなく巨人が川の端に現れ、二人はジパクナに何をしているか尋ねた。巨人は食べ物の魚や蟹を探していると答え、二人は谷底で大きな蟹を見たと伝えた。ジパクナはそれを聞いて谷底に降りて蟹に歩み寄った。二人は下の方をくりぬいておいた大きな山を谷の方に押し転がした。ジパクナはその山の下に埋まったが、身をもがいて這い出してきた。双生児は「今度あいつに荒れだされてはたいへんだ」と言って、ジパクナを大きな石に変えてしまった。
こうしてヴェラ・パズに近いメアフアン山の麓で、巨人ジパクナは滅びた。
カブラカン退治
ヴクブ・カキックスとジパクナを退治した、フン・アプとエックスバランクェは、残りのカブラカンを退治しようといってカブラカンのいる所に訪ねて行った。カブラカンは大きな山を根こそぎにして大空に投げ上げていた。二人は巨人に何をしているか尋ねたが、巨人は二人に名前を訪ねた。名前はないが狩人と答え、吹き矢で鳥を落とそうとしているといった。巨人は立ち去ろうとすると二人は山投げの芸当を見物したいと言って巨人を引き留めた。巨人は得意になって二人にどの山か選ぶように言った。フン・アプは山を指定し、巨人がその山へ行こうとすると、二人がまず腹を満たしてからにしようと提案した。カブラカンは食べ物があるのかと聞いたが、二人は何もないと答えた。巨人は怒って近くの小さい山をつかみ海の中に投げ込んだ。
フン・アプはそれをなだめ、吹き矢で鳥を射落とした。巨人はその鳥を生のまま食べようとした。フン・アプはそれを止めて火にあぶるといい味になると言って火の上で鳥をあぶった。しばらくすると旨そうな匂いが巨人の鼻をくすぐった。巨人は鳥を受け取るなりたちまち食べた。フン・アプは大きな山を持ち上げるように言った。しかし、カブラカンは二人のしかけた毒で目がかすんでいた。カブラカンは山の所に連れて行ってくれたら持ち上げることができるといい、二人は巨人の手を取って山の側に連れて行った。しかしそのころには激しい毒が体中に回って膝同士がぶつかり戦の太鼓をたたくような音を立てていた。そして額から落ちる汗で山の腹に小川が出来ていた。カブラカンは歯を食いしばって、体中の精気を搾りだしたが大きなうめき声をあげて大地に倒れて息が絶えてしまった。
卵から生まれた侏儒
あるところに、一人の年よりの女がいた。誰も身寄りがなく一人で小屋の中に住んでいた。そして朝から晩まで炉のそばにうずくまって、小屋から出ることはめったになかった。
女は子供が一人もいないということを苦に思い、ある日卵を一つ取り出して、木綿の布で包んで小屋の隅に安置して卵から子供が生まれるかもしれないと独り言を言った。
女は卵を毎日見つめていたが卵には何の変わったこともなかった。彼女はがっかりしていたが、ある朝目を覚ましてみるといつの間にか卵の殻が割れて可愛らしい小さい子供が腕を出してきた。女は夢中になって喜んだ。そしてできる限り大事に育て一年の終りには、大人と同じように歩き回ったり話したりするようになった。しかし、その子はいつまでたっても背丈が伸びなかった。その子は侏儒であった。しかし女はそれを苦にせず子供は今に偉い首長になると言っていた。
ある日彼女は侏儒に王様の宮殿に言って王様と力比べをするように言ったが侏儒はそれを拒否した。しかし女は言い張るので侏儒はその言葉に従って王様の宮殿へ向かった。侏儒は門番に恐る恐る王様と力比べに来たというと、門番は嘲ったが侏儒がしきりに頼んだため王様に伝えると、王様は面白がって、自分の前に連れてこいと言った。
侏儒が王様の前に現れると王様は庭先の大きな岩を持ち上げたら力比べをしてもいいと言った。小人はその岩は自分には持ち上げられそうになかったため、宮殿から引き退いた。そして泣きながら家に帰り女に事の次第を話すと女は侏儒を励まし、侏儒は再び宮殿を訪れた。そして王様に言い遣った岩を軽々持ち上げた。その剛力に王様はびっくりしていろんな力業をさせてみたが、それらをことごとくやってのけた。王様は怒りだして、今度は大きな宮殿をつくるように言った。
侏儒は困って自分の家に逃げ帰った。そして女にそのことを話すと、女は笑って安心して休むように言った。侏儒は気になって仕方がなかったが、黙って寝床に入った。そして朝になって目を覚ますと、二人は素晴らしく大きな宮殿の中に横になっていた。
王様はいよいよ腹を立てて、侏儒を呼び寄せて、コゴイオル(極めて堅い樹)を二束持ってきて、その一束で王様が侏儒の頭を殴るから、その後で侏儒も王様の頭を殴るように言った。侏儒はまた泣きながら自分の家に帰って行った。女は侏儒の頭の上にトルチラというものを載せた。侏儒が二束のコゴイオルをもって王様のもとに来ると王様はすぐにその一束で侏儒の頭を殴りつけた。しかし侏儒は平気な顔をして突っ立っていた。王様は焦って続けて殴りつけたがいくら殴ってもびくともしなかった。そのうちにコゴイオルの束が砕け、王様はこの話を取りやめにしたいと思ったが、自分から言い出すわけにはいかなかった。
やがて侏儒がコゴイオルの束で王様の頭を殴ると二打ちで叩き潰した。
人々はその力に感服して、侏儒を自分たちの酋長にした。侏儒が酋長となるとともに、歳をとった女は姿を隠してしまった。マニという村に深い井戸があって、地下道に続いている。この地下道に流れている河の岸に一本の大きな樹があり、その樹の下に一人の老女が座っている。それが侏儒のお母さんであった。彼女は蛇を自分の側においていたが、それは人間の赤子を餌食にして命を保つと言われた。
乙女争い
昔チチェンの地にカネックという王様がいた。王は、一人の麗しい王女に恋してたびたび結婚を申し込んだが王女はそれを刎ねつけユカタンの雄々しい若者と結婚することになった。
カネック王は可愛さ余って憎さ百倍と相手の男もろとも叩き潰してしまおうと、たくさんの家来たちを引き連れて、結婚の宴の席に押しかけて戦をしかけた。
双方必死に戦ったがカネック王は、戦の騒ぎにまぎれ、うろうろしていた王女をわきに抱えて姿を隠してしまった。恋人を奪われた若者は探し回った。それに恐れをなしたカネック王は家来たちを連れて、住み慣れたチチェンの地から逃げ出してしまった。